第82回  “ノルウエー ”

 
(1996年)


この写真は18年前のものです。
人間は必ず老いて、病気に罹って、そして死んでいくものだと知ってはいても、今現在の僕に比べて当時の僕は、なんと見事な男っぷりでしょう。
もしこの頃、黒木メイサや安藤美姫が女盛りだったら、大変なことになっていたのに違いありません。
当時の僕は人気者で、テレビや雑誌の仕事で世界中を忙しく旅していました。
ここは名前は忘れてしまいましたが、ノルウエーの北の端にある北極圏の港町です。白夜の寒い港でも僕はTシャツで洟も垂らしません。  
確か番組名は「素晴らしき地球の旅」(NHK)でした。昔のバイキングが乗っていた帆船を忠実に復元した20メートルもあるボートを操って、僕はベルゲンから、ここまで着いた、いや息も絶え絶え辿り着いたのです。  
船外機はおろか、モーターで動く物は何もありません。キャプスタンではなく自分の手で錨を揚げ、手でロープを引いてセールを張り、必死の想いでフィヨルドを巡って北極圏に辿り着きました。  
そして鱈漁師が海に捨てるので、カモメが大声で啼きながら争って食べていたタラコを貰い、漁師町のスーパーで買った醤油で煮て、僕はウィスキーのソーダ割り、つまりハイボールを呑んだのです。