第72回  “103ナックアウト勝利”

 
(1987年 ニューヨーク17st)



僕と一緒に立っている男は、サンディー・サドラーです。
引退する1957年までに、57キロのフェザー級で162戦して144勝、その内103ナックアウト、16敗2引き分けという、人間離れした戦績を持っているのが、この痩せた機嫌のいい黒人の爺サマでした。
1955年に来日して金子繁治と対戦し、6回TKOで勝っています。  

これは今から25年前の写真で、僕は49歳、10年ほど前に亡くなったサンディー・サドラーは61歳です。  
昔、毎日2ラウンド、スパーリングパートナーをやって2ドル(1ドル360円でした)貰っていた僕が40キロも肥ったのを見て、「毎日泳いだらどうだ。日本の海は底に真珠が落ちているから、ダイエットしながら家が建つぞ」なんて僕に言います。
そして自分は海員組合のジムでセイラーにボクシングを教えていて、毎日3マイル走っているから昔のズボンが今でも履けると言って、「イエーッ」と奇声を発しました。これは昔から彼の上機嫌な時の癖でした。  
サンディー・サドラーは、もうプロの選手には教えないと呟きました。  
「マイナーな黒人やヒスパニックの殴り合いを、白人が見て金を賭けるのがプロボクシングだ。幸せになったボクサーは一人もいない。強かった奴ほど不幸せになる」と、僕を見て寂しそうに笑ったのです。