第40回  “スペインの古城にて”

 
昭和四十三年


今から四十年以上も昔になる昭和四十年代は、僕にとって黄金の日々でした。
若かったせいも勿論ありますが、今のように、法律にも、常識や良識にも無関係だった僕は、思いっきり羽が伸ばせたのです。
今の僕には信じられないほどの、自由と思い切りの良さと、気合いがありました。
ゴロツキだった僕は、全国指名手配を喰らうと、他人名義のパスポートで旅をして、ほとぼりを冷まします。
勝てば監獄、負ければ地獄の渡世に身を置いていても、桜田門一家に簡単に捕まるわけには行きません。
共犯がみんな逮捕されて事件の調書が揃ったのを見届けてから、ゆっくり自首するのです。
いずれにしても、これから地獄の釜が口を開けて待ち構えているというのに、若い僕は、スペインの古城で屈託のない顔をしています。
当時の僕は、今だったら大変なこと、逮捕とか服役なんてことが、平気でした。
ゴルフでOBを打つのや、連載が打ち切りになることより苦にならなかったんですから、同じ男とはとても思えません。
価値観が今とその頃では、全く異質でした。
籍を入れた女房殿の他に、若くて綺麗な愛人が大勢いました。嘘でも法螺でもありません。
いくら僕でも、パソコンを相手に嘘はつかないし、それに、まだ昼間ですから酒だって呑んではいないのです。
この写真を撮ってくれたセニョリータは、名前がなんと十五もあって、スペインではそれが当たり前だと言ったのですが、本当でしょうか。
ジュゲムジュゲムみたいな名前では、親も男も覚えられないし、警察も裁判所もひと苦労だと、僕は余計な心配をしたのを覚えています。