第273回 『大猫と小猫のお喋り』


寿命はとっくに来ているはずなのに、まだ俺はしぶとく生きている。  
女房殿がとても居心地よくしてくれるので、俺はのうのうとしてテレビばかり見て、飼い猫のウニに呆れられているんだ。      
顔に毛がたくさん生えているから猫の表情には微妙な変化があるのが、普通の人は気がつかない。いや、俺は女房殿が普通の人だなんてひとことも言ってはいない。  
ウニはムッとすると、隣の国のカリアゲ君とクリソになり、たまにお世辞を言われるとアベアキエと同じ顔になる。
「日本一可愛くて世界でも三番目には入る賢い猫だ」なんて俺が言うと、もうまるで剛力彩芽ちゃんの顔になるのだ。
女房殿は俺とウニのことを、「ウチの大猫・小猫」と言う。どちらも食べて寝るだけの毎日で同じなのだそうだ。大猫は手がかかるしいろいろ面倒を起こすが、小猫(子猫ではない、もうすぐ12歳だ)の方は可愛くて仕方ないらしい。ウニの腹黒さにはあまり気付いていない。  

口を開けてテレビを見ている俺を横目で見たウニは、安倍晋三の国会答弁を聞いた日本の納税者のような顔になる。ただ呆れているのではない。呆れ果てているんだ。  
それにしてもテレビは何てくだらないものばかり映すのだろう。少し前までは朝から晩まで相撲取りのあまり賢くはなさそうな顔ばかり映していた。  
モンゴル人だらけの横綱の中に、大きいだけでたいして強くはないと素人の俺にもはっきり分かる新横綱キセノサトをでっちあげたが、いつもの手口で散々煽り立てても、どうにも思った通りにならないと、今度は元横綱のマフラー好きの男が、理事を辞めさせられるかどうかという、どうでもいい噺をこれでもかとやっていた。  
ハルマフジの暴行事件で、相撲協会評議会というワケの分からない組織の議長であるイケノボーというケバい婆さんが何か喋るたびに5ちゃんねるの格好の餌食になっていたが、こんなもの延々とテレビで見せられて面白いか?  
ウニが「NHKのニュースで最初にやるのは、 国技だからなの?」と俺に訊いたので、「日本の国技はチャンバラと女相撲だ」と答えたら、「どっちもオリンピックじゃやらないね」と言う。  
「いや、出来るだけ種目を増やして、視聴者にテレビを見て貰うのがIOC(国際オリンピック委員会)と電通の絵図だから、チャンバラも女相撲も近々競技種目になる」と教えてやったら、ウニは「猫ブームだからネコパンチもそのうち競技種目になるかな?」と言うので、「そんなもん、なるか」と俺が言うと、 「なんだ。僕コーチになってメス猫たちのハーレムをつくろうと思ったのに」と、イケナイことを呟く。  
こんなことを大猫小猫で喋っていても猫語だから女房殿には分からない。
猫語は声だけじゃない。目も耳も髭から尻尾の先まで全部使って喋るから、80になった俺には15分も喋るとぐったりする。  
ウニは超可愛い猫だけど、俺のナックルと同じほどの脳味噌しかない。ネコパンチなんかオリンピックの競技種目に80年経っても入るものか。バタフライは入っても犬掻きはまだ入ってないだろ。猫語でその理屈を説くのに30分も時間がかかって、危うく眠っていた癌細胞が目を覚ますところだった。

相撲騒ぎのあとテレビは雪と氷のオリンピックばかり、飽きもせずに映していた。ウニはノーマルヒルとラージヒルが、どう技術的に違うのか何度でもしつこく訊く。  
「やったことがないから確かなことは言えないが、多分同じだ。IOCと電通は種目が増えてテレビが映せば、いろんなとこから金が入る仕組みなんだ」とウニに教えてやった。  

相撲とオリンピックが終わったら、テレビはまた北朝鮮がらみと森友問題に戻った。これからまた2ヶ月くらいこの話題が続くのかとウンザリして俺がニュースを見ていたら、ウニが足元にやって来て、「僕がテレビに出るいい方法を思い付いた」と言う。  
「なんだ?」と訊くと、「おやつに“ちゅ〜る”をもっと食べさせて。僕ならCMのネコよりもっと可愛らしく食べてみせるよ」と、自信満々に言う。  
あれ、こいつ自信過剰だけど案外頭のいい奴かもしれないと俺は思った。

前回“金儲けの術の噺”を書くと言っていたけど、忘れてしまった。
いずれ続きを書きます。許して!  
 




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