第272回 『明けましておめでとうございます』


読者の皆様、明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。

食品スーパーを三軒廻ったけど遂にコノワタは発見出来なかった。杉並の人たちはいつの間にか、海鼠(ナマコ)を喰わなくなったらしい。海鼠を喰わないからコノワタがないんだ。  
新年だから読者の皆様にいいことを教えて差し上げる。海鼠はナマコじゃなくて、本当は「コ」って言うんだ。ローマ字で書けば「KO」 だ。嘘じゃない。昔、岩手か青森の漁師さんに聞いたんだ。
“生”だからナマコで、コの“腸(ワタ)”だからコノワタだって言えば、分からない奴は安倍晋三ぐらいで、俺の読者は皆さん膝を叩いて納得してくれる。  
それにしてもあんな得体の知れないグニャグニャした気色悪いものを、最初に食べた奴は偉い。「古事記」にも海鼠のことが載っているというのだから、大昔にも変わった奴がいたのだ。酢の物にすると酒の肴にピッタリなのに、なんでみんなもっと食べないんだ。  
阿佐ヶ谷の食品スーパーには、コもコノワタもなかった。でも酒盗は旨いのがあったから、俺はウニの前でゆったりと爛漫を呑む。なぜゆったりとなのか、他の肴だと盗み酒でもしているようにコソコソ呑まなければならない。こんな情けなくみっともないことにどうしてなってしまうのか?
二人と一匹の一家で、控え目な俺は三番目に偉い。女房殿・ウニ、そして俺の順だ。俺が酒を呑み出すと、長い自慢の尻尾をおっ立てたウニが目を輝かせて食卓にやって来る。肴はほとんどがウニの大好物だからだ。そうすると三番目の哀れな俺は酒が入ったコップを右手に持ち、箸は胸のポケットに刺して、肴の小皿を左手に捧げ持って椅子から立ち上がらなければならなかった。そうしないとウニに取られる。  
今年の正月も、蒲鉾はウニの胃の中にほとんど納まった。辛過ぎるせいか酒盗はウニの舌に合わず、クンクン匂いを嗅いだだけでソッポを向いて食卓から立ち去った。  

呑み屋にも足が遠くなってしまった俺は、女房殿に小遣い銭を貰っても“ウニに小判”で使い道がまるでない。  
十七〜八の剛力彩芽ちゃんに似た愛人でもいれば金もいろいろ掛かるだろうが、せいぜいカルディーファームかコンビニでお菓子を買うくらいだから、金なんか五千円札でも遣い切れない。  

今は金儲けとも無縁の暮らしだが、俺はそもそも金儲けが大好きだったんだ。中学の頃から才能の芽はあった。  
「諸物価高騰のおり、今冬から暖房費を150円値上げさせて頂きます」というチラシをガリ版で刷り学校印も芋版でそれらしく押して、同級生たちに売りまくったんだ。教室の暖房は当時ダルマストーブで、経費の一部を父兄に負担してもらっていたんだ。親から金を預かり、生徒が教務室かなんかに届けていた。  
実際のところ、いくらだったか65年以上前のことだからよく覚えていない。ともかく値上げするという事にして、俺は一人につき50円、そのチラシを買った同級生は差し引き100円小遣いに出来るという算段だ。飛ぶように売れた。何といっても子供が多かった時代だ。俺の麻布中学は一クラス50人、5組もあったんだ。一学年250人もいたんだぞ。  
俺もウハウハだったし、買った学生も大喜びだったのだが、つい欲をかいて麻布中学の近所の女学校にまで販路を広げたのがマズかった。どこかの馬鹿真面目な女学生が教師に言いつけて学校にバレて、親からも学校からもこってり絞られた。  
博奕もやった。相場も張った。当時珍しかった24時間営業のレストランやライブハウスもやった。外車専門の中古車屋もやったし、プロモーターもやった。  
やった人が誰もいないような新規事業を立ち上げるのも好きだった。金も好きだが金儲けの術を編み出すのが好きだったんだ。  
だから今回は“金儲けの術”の噺だ。  

まずは馬券で確実に儲ける術だ。競馬を御存知の読者は、“馬券で確実に儲ける術”なんてあるわけないとお思いに違いない。  
俺の知る限り文明先進国では一番高いカスリを、売り上げから天引きする公営競馬だから、馬券で確実にプラスするなんてそんなこと普通のカタギは信じない。  
けど俺はその馬券術を四十年前に完成して、 文章で一家が養えるようになるまでちゃんと飯を喰って来たんだ。  
飯だけじゃない。その頃はモデルやダンサーを愛人にして、世界で一台の金メタリックのメルセデスや、エルドラドのソフトトップに乗って、特級酒を呑みサーロインステークのニューヨークカットを18オンス、ミディアムレアで喰っていたんだ。  
そんな夢のような時が過ぎ去って、カタギになった俺が文章で暮らしが立つとなった時、この術を僅か定価千円で本にした。それが『極道の恩返し・ワルの馬券学』だ。  
要するに馬主・調教師サイドの馬券に乗って儲ける馬券術だ。簡単に聞こえるかもしれないが、そうは問屋がおろさない。しかし、よくよく情報を精査すれば呆れるほど儲かる。  
この本は63万部も売れたので、古い競馬好きの読者は覚えていらっしゃる方もおいでだろう。現代の三連単時代になっても原理は同じだ。
馬主にもいろいろあって、調教師サイドに甘く思われている奴の馬券は、あてにならない。
この噺は次回も続く。
 




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