第238回 『インケツ』


最低最悪の絶望的な状態のこと、またはそんな状態を招く疫病神のようなヤツのことをインケツと言う。関西の勝負人(ショウブニン)はそんな状態や人間を予見した時、虚ろな目を虚空に移して、「インケツや」と呻く。
ソイツと組むと、どんなに成功間違いなしと思えた周到な絵図面でも、なぜかことごとく裏目に出て、刑事や検事を相手に嘘の限りを尽くすことになる。  
ソイツをうかと仲間に招き入れてしまうと、想定外と言うか前代未聞の、それこそ下手な小説みたいなことが起きて、みんなをドツボに嵌める。いるだろう?そんなヤツが。  
インケツを遠ざけて、関わり合わないようにすることが、人生で一番大切なことだと上方の勝負人は知っている。  
俺は父方が神戸の須磨の出身で、母方は東京・五反田の池田山だから、関東と関西のハーフだ。  
しかし祖父も父もカタギの人だったから、俺は博奕打ちになるまでインケツという言葉を知らなかった。  
このインケツを知るのと知らないのとでは、早い話が命にかかわる。  
俺がホラを吹いたり、大風呂敷を広げたり、嘘をついたり、急いで逃げたり、死んだ振りをしながら、七十七まで生きてこられたのは、ただ知っているだけではなく、インケツをちゃんと遠ざけたからだ。  
インケツを内懐には入れず、接近戦を拒んだから、この年になってもまずまず人並みに幸せに暮らしていられるのだ。  
もちろん若い頃は人を見る目もなかった。事態を正確に把握し、先の事を読み取る力もなかった。まだ目が肥えていなかったのだ。今でも時々失敗はあるが、早めに気付けば傷は浅い。これは本当に命と幸せにかかわる話を、大真面目にしているのだ。  

東電の福島第一原発も御嶽山の噴火も、それにオバマが黒い顔を青くして慌てているエボラ出血熱もみんな、そんなインケツが原因の一部だと俺は思っている。  
非科学的で、いい加減なことを書き散らしていると思わないでほしい。これは不思議を遥かに超えて、神秘的とさえ思えるようなことなんだ。  
俺の七十七年の人生は、いいことより断然悪いことの方が多かった。良かった、幸運だった、ツイていたと思うのは、殺されなかったこと、作家になれたこと、それに大怪我することはあっても、大病せずにやってこられたことに尽きる。  
後はもう、思い出すのも嫌なことや、不運と不幸の提灯行列で、そんなことの原因の一部か全部に、いつでもインケツがかかわっていた。七回転んでも、八回目に立つことが出来たのは悪運の強さだけではないのだ。

東電も、並んで頭を下げていた役員の中に、二人は確かにインケツがいたのを、俺は頭を上げた時に顔を見て確信した。俺ぐらい年功を積むと、声なんか聞かなくても、ほんの二秒顔を見れば分かる。  
安倍晋三の周りでは、高村という自民党副総裁と、法務大臣の歯の出た赤いオバさんがインケツだ。  
サッカーのメキシコ人監督も、誰も気が付いていないけど、ああいう顔が中南米特有のインケツなんだ。  
プロ野球の監督でインケツが見抜けない男は駄目だ。インケツは大事な場面で必ずエラーをする。犠牲バントも出来ずに三振かゲッツーを喰らう。
オリックスの監督は稀に見る穏やかな顔をしたいい男だが、自分のチームのショートがインケツなのを見抜けなかったのが惜しい。  
ジャイアンツは監督自身がインケツだから、セペダも兄弟分だ。  
“じゃあインケツを見分ける秘訣を教えろ”と言われても、こればっかりは難しい。とにかく自分の周囲と、世の中をジーッと観察し続けることだ。あとは直感に従え。  

え、最近仕事でも遊びでも俺にお座敷がかからないのは、“アベはインケツだから”って周りの人に思われているからじゃないか?って。  
ウ、ウ、ウソ!ウソ! そ、そ、それはないと思うよ。(内心動揺……)
 
俺の書いた本や雑誌の原稿、H.Pをくまなく読んでくださる有り難い方がいらっしゃる。ハンドルネームを“keibahouihan”とおっしゃる方だ。この場を借りて、厚く御礼申し上げる。
 


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