第221回 『建築家のド阿呆』


友達に建築家は一人もいない。だから俺は遠慮会釈なく何でも書ける。タイトルに謳ったように、建築家は“弩”がつくほどの阿呆タレだ。そんなことは空港に行けば、誰にでも分かる。
あれは昭和37〜38年だったと思う。ロサンゼルスを皮切りに世界中で空港の改築ラッシュが始まった。当時の俺はアメリカの西海岸しか知らないから、もしかすると東海岸のニューヨークやワシントンの方が早かったのかも知れないが、俺は空港建築の歴史を書いているのではない。  
だいたいその頃から、建築家のボロが世界中に明らかになったことを、読者の皆さんに訴えたいのだ。  
俺の知る限りロサンゼルスもサンフランシスコも、ホノルルも羽田も、ボーディングブリッジと“動く歩道”は付いたが、乗客にとって歩く距離が短くなった空港は一つだってありはしない。  
やたらと横に拡がっただけで、「新しくなって本当に便利になった」と、お客を唸らせた空港がもしあったら、どなたでもいいから教えてくれ。ホラ、見ろ。ないだろ。  
一番非道いのは福岡空港だ。設計者は誰かとアチコチ見て回ったのだが、乗客の目に付く所には「設計者ナンノナニガシ」というプレートは、掲示してない。あまりの出来映えの悪さに、自分でも設計料が貰えただけでいいと思ったのに決まっている。  
福岡空港に着いた便の乗客は、トコトコトコトコ端まで歩いて、チェックした荷物を取り、また出口まで荷物を持って戻らなくてはならない。 つまりバゲッジカウンターが、空港ビルの端に付いているんだ。  
建築家は埼玉県か山梨県、さもなければ長野県生まればっかりだと俺は決めている。漁師とお内儀さんたちが、轆轤(ろくろ)で浜に舟を引き揚げ、朝になると威勢良く出漁して行くのを建築家たちは見たこともないんだ。  
だだっ広くて不便なターミナルを造らずに、飛行機の鼻先にフックを付けて、高層のターミナルの各階から地面に伸ばしたスロープで引き揚げ、静かに降ろせば済むことじゃないか。  
頭は帽子を被る為にあるのではない。考える為に付いているのだ。

ついでに俺が40年前から考えている建築プランを、この際だから書いておこう。東京都の交通問題も労働問題も住宅問題もほとんど全て解決する、我ながらアルキメデスかミケランジェロみたいな国宝的なプランだ。
女房殿やウチから一番近い飲み屋の常連は、耳にタコどころの話ではなくカリフラワー(柔道やボクシングで耳が湧くこと)になるほど、俺に聞かされている話だが、人の目に触れないと無かったことにされるから、誰にも頼まれていないけど、極く簡単にこの驚異的にして革新的な建築プランを書いておく。  
最近都知事になったネズミ男は顔どおりの男だから、こんな壮挙は出来るタマではない。今20代か30代の政治家が都知事か首相になって、まだ東京が廃墟になっていなかったら、この世界史的なプランは日の目を見るだろう。その頃俺は多分もういない。だから後世の為に、今ここで書いておくのだ。  

山の手線と、中央線の新宿から東京駅の間を、全部30階建てのビルにする。  
上から見ると大きな、平仮名の“の”の字に見える筈だ。新しい“万里の長城”か“ピラミッド”が出来たと驚いて、宇宙人がUFOで飛んで来るかもしれない。  
1〜2階は電車が通り、3階はショッピング・アーケードだ。最上階はホテルにして、屋上は遊歩道にする。そして残りはほとんど、2LDKか3LDKのマンションだ。  
地主がJRだから土地代は要らない。鶯谷では風俗をやればいいし、渋谷では台湾料理を、新橋は真冬でもビヤホールだ。新宿は巨大電気店が立ち並ぶ。みんな会社にローラースケートかスケボーで通える。東京の地価が暴落して銀行が潰れれば、いい気味だ。


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