第210回 『仙台の夏。味噌屋大慌て』


極く小規模だけど、「アラブの春」のような“きざし”が、日本でも起こっていることに俺は驚いている。
「へぇー、パソコン時代になって、新しい日本人が育っているんだな」と、小学校の校庭で飛び跳ねている少女たちを見た時のようにジワジワと嬉しくなってくる。本題に入る前に、小学校の校庭の話だ。  
俺は女房殿に、小学校の校庭に面した道路を通る時は、立ち止まってフェンスを両手で掴んで、体操をしている少女たちを口を開けて見詰めてはいけないと、きつく申し渡されている。ウチは小学校と目と鼻の距離なのだ。  
「締まりのない顔をしたあなたが、校庭で遊ぶ少女たちを立ち止まって5分も見ていたら、間違いなく110番されてパトカーが来る」と言う。  
俺は、そんな風には見えっこないと思っているのだが、しかし二人と一匹の一家で一番偉い、自民党だったら安倍晋三、民主党なら海江田某みたいな女房が言うのだから仕方がない。俺だってもしそんなことになったら、弁解するのが面倒だから一応言うことをきく。  
幸いなことに歳が歳だから、俺がノソノソ歩いていてもそれだけでは見咎める人なんかいない。たまに立ち止まって息を整える振りをして、俺は長いアンヨの少女たちをチラテンする。チラテンというのは“盗み見る”ことだ。  
先日、出版社の若い男が涙ながらに「女に捨てられた」と、この世の終わりみたいな顔で言うから、「逃げた女は幾つぐらいの年格好だ?」と訊いたら26〜27だと言う。  
フェンスの前へ連れて行って、体操をしている少女たちを見せた俺は、「年増が一人逃げたぐらいのことで、ショボくれるんじゃないよ。もっと綺麗で足の長い娘が気が付かないうちにドンドン育っているんだ」と励ましたら、若い男は気を取り直して帰って行った。 
パソコン・スマホ時代になって、日本の少女だけではなく、世界中で人間が変わった。 
あのイスラム教徒たちも、「アラブの春」をやったんだ。残念なことに“春”はなかなか来なくて、いまだにモメ続け、内戦状態が続いているが、自分たちの手で何かを変えようと立ち上がったことは確かだ。  

仙台の岡田生産組合という味噌屋が、大変なことになっている。  
皇太子殿下と雅子妃が被災地の視察だか公務だかに出掛けたのを、テレビはおっとり刀で報じた。2チャンネラーたちに「ロイヤルニートのアリバイ作り」とまで書かれる始末のご夫妻だが、テレビのアナウンサーは作り笑いを浮かべ、有り難がって報じる。  
この場面を見ていたウニが、滅多にはしない厳粛な顔をしたのは、畏れ多くて…ではなく、猫トイレでウンコをしていたからだ。テレビの“暇ネタ”は民放だけかと思っていたら、受信料を取るNHKでも、このネタをやったのだから俺もウニと一緒にウンコがしたくなった。  
それからが“仙台の夏”で、滅多にモノに動じない俺を仰天させる。  
ご夫妻は仮設住宅の10分訪問のあと、地元の味噌加工工場へ向かった。宮内庁か宮城県の偉いサンに、脅かされたか頼まれて、皇太子殿下と雅子妃の視察を引き受けた味噌屋は、その日のうちにブログのコメント欄が炎上ではなく、味噌屋だから腐敗してしまう。  
俺もビックリしたが、テレビを見ていた日本中のオバさんたちが、白衣も白キャップもマスクも着けずに麹室に入るお二人に激怒したのだ。その膨大な数とキツイ言葉に、俺は驚く。「お会い出来てラッキー」とVサインでハシャイだ応接係のオバさんの愚かさにも呆れた。  
コメントの主な内容はこうだ。「なぜ白衣・マスク・キャップ無しで食品加工現場に入室させたんだ」とか、「発酵食品に雑菌は厳禁なのに、味噌を覗き込んでお喋りするなんて以ての外だ。髪の毛もツバも入る」とか、「白衣着用を拒まれたのなら、その時点で視察を断るべきだ」とか、「被災地を応援したいが、こんな不衛生な環境で作っていると思ったらとても無理だ」などなど。  
こんなものもあった。「本来、味噌は雑菌が繁殖しにくい冬に仕込むのが一般的。これはひょっとしてヤラセのショーなのか?そこまでする必要があるのか」というものだ。  
俺のような年寄りは、呆れたり怒ったりしても猫と一緒にトイレに入るぐらいで、なかなかメールまではしない。  
しかし日本のオバさんたち(もちろん男の人もいるのだろうが…)は違うんだ。
仙台の呆れた味噌屋だけじゃない。オバさんたちは原発再起動にも、TPP交渉にもちゃんと自分の意見をメールする。行動する。
日本は変わった。次のターゲットは安倍晋三だぞ。  


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