第206回 『プロって本当に凄い!』


スタンドでビールを呑みながら見物するプロ野球は、たとえヤクルト対カープでも、俺の最高の楽しみだった。“だった”と過去形で書いたのは、もう5年も野球場へ行ってないからだ。
神宮球場や横浜球場に、出喰わすとマズイ女がいるわけではない。大きな紙カップで800円のビール代をケチるようになったからでも、入場料が懐に響くようになったからでもない。  
つくづく老い耄れたと、野球場にも行けなくなった自分を哀しく思う。
朗らかで溌剌とした娘さんが売ってくれた冷えたビールを、ほんの4杯呑んだだけで、俺はもう立てなくなる。立ち上がれなければトイレにも行けない。  
2杯で止めれば急な階段でもなんとか登り降り出来るのだが、野球は2時間も3時間も続くんだ。そんな中途半端に止められるか。「今、何杯目だっけ?うん、多分2杯目の筈だ」と心の中で勝手に決めて、結局3杯も4杯も呑んでしまう。  
5〜6年前に、中学の同級生の玄ちゃんと一緒に東京ドームに行った時なんか、ゲームが終わって、観客がみんな帰っても俺たち二人はスタンドから動けなかった。  
俺も玄ちゃんも早く家に帰りたかったのだが、呑み過ぎて動けない。スタンドの狭い通路でヨロケでもしたら命取りだ。  
俺は当時92キロ、若いころ硬いボールでちゃんと野球をやっていてホームランバッターだった玄ちゃんだって80キロはあるから、どちらが怪我をしてもオンブして帰るわけにはいかない。  
掃除を始めたオバさんに詫びを言いながら、俺たちは30分もスタンドに坐り続けた。  
5〜6年前でそんな体たらくだったのだから、今、野球場に行ったら間違いなく、ファールボールを獲ろうとして前の座席に頭から突っ込むか、トイレへ行こうとして階段を転げ落ちて、救急車のお世話になるに決まっている。  

だから仕方なく俺はウチのテレビでプロ野球を見る。アマチュアの野球は、下手だから俺は見ない。見ればオリンピックと一緒で、野球の好きな俺は陳腐な民族主義に他愛なく巻き込まれてしまうと、76年の付き合いだから自分でよく分かっている。
特に日本全国から野球の上手い少年をかき集めて、地元の選手はまずいない高校野球で、異様な郷土愛を煽り立てるのが、俺は気に入らない。  
ナベツネと最低最悪のコミッショナーのお陰で落ち目のプロ野球だが、今年はルーキーの当たり年だ。二刀流の大谷翔平を筆頭に藤浪、小川と素晴らしい選手がいる。巨人の菅野は、敵ながら天晴れなピッチャーで、プロで10年やった選手以上の技術を持っている。  

ドラゴンスにルナという凄い外国人サードがいる。先日の巨人戦で見事なプレーをやって、テレビで見ていた俺は「うわーッ」と叫んで、ウニの頭をグーではなくパーで叩いてしまった。  
ツーアウトでセカンドにランナーの坂本がいた場面で、バッターがボテボテのゴロをショートの前、ピッチャーの右に打つ。  
ダッシュして拾い上げたルナは、フォースアウトのファーストがクロスプレーになると思ったのだろう、投げようとしたボールを掴んだまま、身体をサードベースの方に逆転させると、ダイブした。
セカンドランナーだった坂本は、サードベースをオーバーランしていたのだが、意表を突かれて必死に戻る。  
が、戻れない。ナベツネも原辰徳もザマーミロだ。こんなプレー、俺は初めて見た。ルナは背中に目があるんだ。
こういう語り草になるプレーがあるから、俺は今日もウチでビールを片手にプロ野球を見る。


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