第199回 『CDを聴きながら…』


俺は仕事部屋の冷蔵庫の上にソニーのテレコを置いて、忙しい時も暇な日も何かCDを掛けている。  
楽器で好きなのはピアノとコルネットとトランペット、それにトロンボーンだ。ヴォーカルも大好きで俺が25年も前に選曲した『ラヴ・ソングス〜安部譲二セレクション』というCDには、好きな曲ばかり15も詰め込んである。  
10年前に亡くなった友人のジャズ・ヴォーカリスト笈田敏夫さんは、苦笑して「まるでゴミ箱みたいだ」と言った。これは曲がつまらないという意味ではなく、いろんなジャンルの曲が雑多に詰まった…というニュアンスだと、俺は勝手に解釈している。  
笈田さんはバラード唱いで、喋りもとても面白い人だったが、まるでごった煮のような俺の選曲にとまどって、適切な言葉が浮かばなかったのだろうと思っている。  
俺には珠玉の15曲の中に、テディ・ウィルソンの“ジーズ・フーリッシュ・シングス(リマインド・ミー・オブ・ユー)”が入っている。  
この曲は凄い。「隣の部屋からポロンポロン聞こえて来るピアノの音、灰皿の中にある口紅のついた煙草の吸い殻、そして航空券。そんな詰まらないものが、みんな貴女を想い出させてしまう…」という、切ない歌詞のバラードだ。歌詞もメロディーも素晴らしいから、バンドではなくテディ・ウィルソンがソロで弾いている。  
今、ジョージア・ギブスの“キス・オブ・ファイア”が終わったので、俺はパソコンの前から立って冷蔵庫まで行き、テディ・ウィルソンのCDに変えた。  
ところでなぜ1階の仕事部屋には冷蔵庫があるのに、3階の俺の寝室にはないんだ。ウオッカとジン、それにI.Wハーパーとソーダを冷やしておけば、俺は毎晩幸せな気分で寝られるのに…。そうしてくれない女房殿は、俺を寝かさない気らしい。新婚さんでもあるまいし、もう四半世紀も一緒にいる夫婦なんだ。冷蔵庫を寝室に置いたっていいだろうよ。別にその中に剛力彩芽を隠しておくわけじゃない。  
寝室に小さな冷蔵庫を置きたいという話は、9年前から言っているのだが、いつも却下されっぱなしだ。  
女房殿の主張はこうだ。「あなたは程良いところで止めるということが出来ないタチだから、‘旨い旨い’と言いながらヘベレケになるまで呑む。そうすると、部屋の中で転んだり、トイレに行こうとしてヨロケて3階の階段から1階まで落ちるかもしれない。そうなると私もウニも迷惑だから、寝室での寝酒は禁止です」と言う。
ふざけるな!そんなこと、年にあっても3回くらいだ。あとの362日はとても快適に眠りにつけるのに…。  

駐車場の空いたスペースに、苗木ではなく植木屋さんに頼んで、来年から
すぐ実がなるような大きな栗かユズを植えようという俺の提案は、つい10日前に思い付いて、もう7回も却下されている。  
ウニに「なんかいい手はないもんかね」と相談したら、「栗?ユズ?そんなもんより鯛かイワシのなる木にしたら?」なんてバカなことを言う。ウチに住んでいる奴は、ウニも女房殿もオタンコナスだ。

今度はCDをマンボかチャチャチャに変えて、冷たいビールを呑む。  
今、俺はベッドを仕事部屋に移すことを秘かに考えている。セミダブルの大きくて重いベッドを、どうやったら1階までうまく下ろせるか?  
女房殿に相談しても却下されるのに決まっているし、ウニはこういう時ハシャイで走り回るだけで何の役にも立たない。冷たいビールで頭をクールにして、いい手を編み出そう。  
「いつやるか?今でしょ!」ってか。 


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