第173回 『ザ・ホワイトハウス』


女房殿の買い物に散歩がてら付いて行く。ポーター役ではあるが、支払い係ではない。郵便局や銀行で用事を済ませて、最後に女房殿は駅前の食品スーパーに行くが、俺は改札のところで待っている。
俺が付いて行くと、時間が三倍かかって荷物は倍になるから、付いていかない方がいい。店が混む時間に、デカイ男があちこちウロウロしていたらハタ迷惑だ。だから俺は駅前で女房殿が戻って来るのを待っている。  
今日はやたら駅前にお巡りが多かった。地元の何かの団体と一緒に、「振り込め詐欺に気を付けよう」というキャンペーンをやっている。警官のひとりが俺にポケットティッシュをくれた。長生きはするもんだ。生まれて初めて警察にティッシュを貰った。  
日本の年寄りは、本当に小金持ちが多いからターゲットにされる。オーストラリアに移住した友人が言っていた。  
「振り込め詐欺なんて、この国じゃあり得ない。まわりに年金生活の年寄りは多いが、貯金なんてほとんどない。電話で“今すぐ百万必要だ。振り込んでくれ”なんて言われても、そもそもそんな大金持ってないんだから、犯罪が成り立たない」と。  
日本は借金大国だ、なんだと言っても、まだまだ世界の中ではメチャクチャ豊かな国なんだ。だからドルもユーロもヤバくなると、みんな円を買う。  

買い物の帰りに、ツタヤで「ザ・ホワイトハウス」のDVDを四枚八時間分借りて来たから見るのが楽しみだ。  
「ザ・ホワイトハウス」(原題はThe West Wing)は、もうとっくに放送が終わったアメリカのテレビドラマだが、女房殿と俺はとても気に入っている。  
十年年くらい前、NHKが鳴り物入りで放送を始めたのだが、シーズン4で放送を打ち切ってしまった。だからそれからはDVDで楽しんでいる。  
今見ているのはシーズン7で、完結編だ。二期務めた民主党の大統領を、マーティン・シーンが七年にわたって演じて来た。アメリカの大統領は二期までしか務められないから、ドラマでは次期大統領選の真っ只中で、ヒスパニックの大柄で若い民主党候補と、共和党のシタタカなベテラン候補が激しい選挙戦を繰り広げている。今現実に進行している共和党の候補者選びのニュースと被って面白い。  
まるで福島原発を予見したような、原発事故がカリフォルニアで起きたり、若くてハンサムなヒスパニックの民主党候補が、人種偏見の壁に挫けそうになったりと、物語りにグイグイ引き込まれる。大統領選が終わって新大統領が決まれば、その時点で職を失うホワイトハウスのスタッフたちの想いも、このテレビドラマはとても丹念に描く。  
アメリカが抱える政治問題、経済状況、選挙制度も宗教問題も、ドラマを見ながら考えさせられる。首席補佐官や報道官のあり方、スピーチライターやロビイストの存在も分かり易く上手に描いている。  
それにここに出ている役者たちの力量が凄い。速射砲のような早口のセリフのやり取り(それもとんでもなく難しい専門用語の応酬なのだ)、フッと場を和ませるウィットに富んだ会話、迫真のディベートなど、これを字幕じゃなく全部英語で聞き取れたら、きっと何倍も楽しめるのに違いない。  
アメリカと日本では、政治家も政府職員も、それに報道機関も有権者もなんと違うものか。まるでもう話にならないほど、同じネコ科でもライオンとウニぐらい差がある。(もちろんこれはドラマだが…)   
しかしよくもまあ黒人のオバマが大統領になれたものだと俺は思うのだが、アメリカ人は「よく田中直紀が防衛大臣に…」と呆れているのかも知れない。  
海外ドラマはCS放送でもDVDでもいろいろ見られるようになったが、こんなに面白いドラマはそう滅多にない。シーズン7で終わってしまったのが本当に残念だ。  



目次へ戻る