第146回 『建築家をクソミソに言う』

西新宿のパークハイアットは、誰がやっているのか、真にバカげた設計のホテルだ。
四十一階で散々呑んで一階の玄関に降りて、タクシーに乗る前にトイレに行っておこうと、ロビーにいたクラークに「トイレはどこだい?」と訊いたら、「この階にはトイレはありません」と言う。それじゃどこで出来るんだと言ったら、四十一階だと言われて俺は気が遠くなった。
二十五年前に若い男を殴って以来、俺はスピードがなくなったのを自覚して、どんなに腹が立ってもケンカはしないと決めている。 年寄りは大丈夫だと思っても、万一に備えて早め早めに手洗いに行っておくものなのだ。もし洩らしでもしたら、心の深い傷になる。女の前だったらそのまま、海か湖に飛び込んで死んでしまうかも知れない。
ウソだ。もし本当なら俺は今までに二回、海か湖に飛び込んでいる。女と言っても女房殿だから、俺は死なずに済んだ。
パークハイアットを建てた建築家は、若くて心遣いが足りない青二才に決まっている。
このホテルではドアマンもベルボーイも、表で立ちションベンしているというのか?そんなわけないだろう。従業員用のはあっても、ゲスト用のは作らないという経営者の面が見てやりたい。そんな奴に経営を任せているバカな株主は誰だ。ナベツネか都知事か、それともモシヤ大勲位かと、酔った頭で俺はいろいろ考える。
読者がイライラなさるといけないから、とりあえず、どうしたかを先に書く。女房殿は、「待っているから四十一階まで戻って、後顧の憂いを解消するか、近所の別のホテルのロビーのトイレに行きましょう」と言ってくれたのだが、俺は「大丈夫だ。夜中で道は空いているから家まで持つ」と答えて、無事にその通りになった。
後で女房から聞いたのだが、このホテルは新宿パークタワーというビルの39階から52階に入っていて、他はオフィスやショールームだという。それでもいやしくもホテルが入っているビルで、一階まで降りてきた客がトイレはどこかと聞いて、41階まで戻れというのは、幾らなんでもあり得ない。どうせ聞けばセキュリティの問題だとか言うんだろうが、こんな事では東京都は免許を取り上げろ。

この際だから俺は、普段は滅多に言わない悪口をホンの二百字だけ言う。年末は忘年会やなんかでつい食べ過ぎるし、生活が不規則になる。悪口も言わずに溜め込んでおくと身体が膨れて体重が増える。
建築家が知恵が足りないのは、空港に行けば誰にでもすぐ分かる。新しくなった空港で客にとって便利になった所が一つでもあるか?
日本のことだけ言っているのではない。世界中の建築家が大変な設計料を取って、だだっ広い不便な飛行場を造っているのだから腹が立つ。
みんなバカでかくなったけど、客は飛行機に乗るまでにくたびれ果てる。動く歩道はノロ過ぎて、年寄りは飛行機に辿り着くまでに寿命が来てしまう。大袈裟じゃぁない。俺は途中で死んだ年寄りを二人も知っている。
最低最悪なのは福岡空港の国内線だ。到着した乗客はエッチラオッチラ、だだっ広いターミナルを歩かされる。動く歩道なんかない。おまけに預けた荷物を取りに、出口を通り越して奥の奥まで行って、またテコテコ戻るのだから腹が立つ。
俺は博多に行く度に、このターミナルを設計した建築家と、発注して建てた奴の無能に癇癪を起こす。ターミナルビルをやたらとダダッ広くする建築家は、考えが足りない。言葉を撰ばずに言えばバカだ。高いビルを建てて、各階からスロープを地上に伸ばして、飛行機をスロープで挽き揚げれば、客はエレベーターで垂直移動して済む。浜辺に行ってみろ。漁師は漁船を轆轤(ろくろ)で巻き揚げている。建築家はみんな、海のない山梨県か長野県の出身だと俺は思う。パークハイアットも、そんな奴が建てたのに違いない。

 あぁ、洩らさなくて良かった。


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