第141回 『権威崩壊!』

ウチで一番下っ端の俺は何にもしていないのに、絶対専制君主の女房殿と一の子分の飼い猫のウニが、一昨日からとても機嫌が悪い。
俺は黒木メイサとソニンが好きで、これは二年も前から公表している。それに小沢一郎や仙谷由人と違って、毛ほども怪しいところが無い。キッチンの料理用の酒が減っていたのは、俺が夜中に一杯やったなんて、もしそんなことを思っているんだったらヌレギヌだ。
女房殿が分からないように、ウニが尻尾と髭とそれに耳を使って喋ってくれたところによると、ママ(ウニは絶対専制君主サマのことを、なぜかママだと思い込んでいる)がブスッとしているのは、大阪地検の前田という検事の証拠改竄事件のせいだと言う。
満四歳になったウニは随分ヒトの言葉が喋れるようになった。固有名詞や地名まで、正確なイントネーションで喋れる猫はそう滅多にいない。
検事が証拠を改竄したのがバレたぐらいで、ウチの親分が不機嫌になられては困る。信じていたものに裏切られると、ヒトは誰でもショックを受ける。
数え切れないほど逮捕されて、十四回も有罪判決を喰らった俺は、最初から検事が正義のヒトだなんて思ってはいない。村木というオバさんが超人的なタフネスだったから、日常的に使っている手が、今回巧くいかなかったというだけの話だ。

お袋と祖母が、「むやみに他人サマを疑ってはいけません」と、口が酸っぱくなるほど言っていた頃、戦争中は白い馬に乗った“アラヒトガミ”だった大元帥陛下が、戦争に負けた途端に「俺様は神じゃない。ホントはヒトなんだ」と言ったのだから、その時は仰天した。
しかしそれで免疫が出来たせいか、その後は何があってもビックリしなくなった。だから俺は検事が証拠を改竄したぐらいでは、別に驚いたり不機嫌になったりしないのだ。
政治家、学者、教育者、宗教家、役人、銀行家に経済人と、権威とされたヒトたちに俺はウソを吐かれ続けて来た。
穏やか過ぎる日本人は、裏を返して言えばとても卑怯なヒトたちだ。自分が信じていた権威が、自滅しても破壊されても、不機嫌になるだけで本気で怒らない。
ウニが不機嫌だったのは、オデコの毛が薄くなったのを、俺が「ウニは俺に似てハゲて来たぜ」と独り言を言ったのを聞いてしまったからだ。
俺が見た限り初めて、自民党に怒った日本人が政権を交代させた民主党だが、鳩山由紀夫はほとんど痴呆で、菅直人は全く総理の器ではない。
価格破壊は大結構だが、日本の権威崩壊はいったいどこまで進むのだろう。


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