第137回 『凶暴な夏』

今年の夏はとにかく暑い。爺いの俺はフラフラだ。脳味噌が溶け出して、思考停止スレスレだ。おまけに異常な長雨やゲリラ豪雨なんかもあって、被害に遭われた方たちは本当にお気の毒で堪らない。
ところで、いつの間にか日射病という言葉が消えた。昔は暑い夏には子供も年寄りも、必ず日射病で倒れ、運の悪い人はあの世に行ったものだ。今は熱中症と言う。確かに家の中にいても死んでしまうことがあるんだから、日射病とは言えない。
昔はとんでもない災難に遭った人に、「バチが当たった」なんて言い方をした。ずいぶん非道い言い方だが、最近は遣われなくなった。バチが当たるような人の道に外れたことをしなくなって、いい人ばかりになったからか、みんなバチが当たるようなことばかりしているから、特段区別する必要がなくなったからなのか…。
ひと昔前なら俺が何か災難にあったら、周囲の者はみんな「積悪の酬いだ」とか「バチが当たった」とか「お天道様は見ている」なんてことを大喜びで大合唱しただろう。

それはともかく俺は特殊な技術を持つ医師だと、自分では思っている。免許を持っている奴だけが医師だなんて、俺は認めない。医師法が制定される前は、誰でも“自分は医師だ”と思った者は、思った途端に“なれた”ではなく、なった。
医師法は権力者が作ったもので、正義や善とは全く関係ない。俺は戦争中にあった“姦通罪”も、それに天皇が神だったころにあった“不敬罪”も知っている。
戦争の音頭をとった、時の権力者が、女房が浮気すると兵隊の志気が落ちるから、亭主以外の男と助平をしてはいけないという法律を作った。これが「姦通罪」だ。「九九も出来ない神様がいてたまるもんか、テンちゃんは脳タリンだ」と酒場で叫んだオッサンを、お巡りは容赦なく不敬罪で引っくくった。
こんな風に、法律は権力者の都合のいいようにいつでも作られる。検事や判事はただの権力の狗なのだ。俺は“裁判員制度”に心の底から反対する。呼ばれて喜んで裁判所に出て行ってポチの真似をする市民は、谷亮子に投票した奴に違いない。
俺は老い耄れたから今さら法律違反をしないだけで、元々無法者だ。免許がないだけで、自分は医師だと信じている。日射病がなくなって熱中症ばかりになったのは、誰の陰謀だ。

家と車にエアコンが付いて、胸から下腹までサラシを捲かなくて良くなったから、凶暴な夏でもかなり過ごしやすくなった。どんなにCO2削減とか地球温暖化がヤバイと言われても、もうウチワと扇風機と豚の蚊取り線香の時代には戻れない。
俺は“古式カラチ流・アシカ医師”を名乗っている。アシカはオットセイじゃない。“足科”だ。爪先から付け根までの足が専門の医師で、得意にしているのは“イオノメ”と“アスリートフット”だ。魚の目と水虫と言うとバカにされるから言わない。
こんなに暑いんだから、足はムレるに決まっている。原稿依頼がなくなったら、すぐ作家は辞めて“足科”の看板を揚げる。兄弟分のウニは看護士だ。女房も黙認するだろう。


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