第126回 『悪夢のシチュエーション』

僕はいわゆる座職で、勤め人じゃないから、同じ家の中の仕事部屋で文章を書き、日に二食ほとんど女房殿と同じものを食べて生きている。
俺はいろんな酒を毎日呑み、女房殿はビールをほんの少しだけ飲むという違いしかない。見るテレビ番組もほとんど一緒だし、ツタヤで借りて来るDVDも一緒に見るから、自然に価値観や好みまで似てくる。
俺は読売ジャイアンツと自民党が、嫌いというより、むしろ敵だと思っているから、相談なんかしなくても女房殿はナベツネや小池百合子に眉を顰める。
俺が「民主党が政権を獲ったけど、今の日本はとても危ない。ヒットラーが現れてもなんの不思議もない」と呟いたら、女房殿もその膝の上にいた飼い猫のウニも頷いてくれた。
小泉純一郎がその気になっていたら、日本は簡単に、1935年ころのナチス・ドイツになっていたと俺は思う。ウソや冗談ではない。俺は本気でそう思っているんだ。
日本は俺もそうだが、ものを考えない人が多過ぎる。日本の象徴は天皇だというが、俺はオバカテレビだと思っている。NHKも含めてテレビが日本の象徴なんだ。

ところでウチの夫婦は、ずっと寝室を別にしている。これは俺の寝相の悪さやイビキや寝言、そして夜中にうなされてウォーなんて大声を上げるからだ。寝てる間のこととはいっても、当人の俺もそんなことは知っている。
一緒に寝ている人はたまらないと思うから、寝室を別にしているんだが、別に仲が悪いわけでも、女房殿に何か普通ではない特殊な信仰や癖があるわけではない。
うなされる時はパターンがある。パターンというかシチュエーションだ。
誰だか分からないが、敵に違いないバカ野郎が拳銃を構えて、銃口が俺の額をぴたりとポイントしているのに、なんとしたことか俺のリボルバーの撃鉄がどうしても起きない。いくら力を入れても、どうにもならない。
なんで普段のガヴァメントじゃなく、古い回転式なんか持っているんだと、そんなことが頭に浮かんでも、どうしようもない。冷や汗が背中にツーッと流れる。
相手の指の先に力が籠もる。ウォーと喚いた途端に、汗まみれになって俺はグワッと目が醒める。本当にイヤな夢だ。
しかし、こんなことも積悪の酬いで、散々若いころ非道いことをしたから、バチだと思っていたのだが、この十年ほどそんな悪夢にうなされることはなくなった。
だから八ヶ岳では一緒の寝室で、シングルベッドを二つ置いてグーグー寝ている。
ここ暫く平和で穏やかな日々が続いたから、俺はうなされなくなったのか。もしかすると長生きして、死をあまり怖れなくなったのかも知れない。それともただ鈍感になっただけか。
拳銃も検察も小沢一郎も、それに今までイヤでたまらなかった裁判員制度も、老い耄れた俺は平気になったのか?どうでもよくなったのか?
女房殿やウニは、そもそも悪夢なんて見るんだろうか、こんど聞いてみよう。


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