第87回 『結婚は痩せない』

結婚というものは、ヒトが愛に基づいて一緒に暮らすことだと俺は思っている。
ヒトと片仮名でわざわざ書いたのは、男と女なんて書くとホモ連中から、“早く死ね!この棺桶に片足突っ込んでるクソ爺い”なんて言われるからだ。
頭の回転がシャープなホモたちは、会話も洒脱なら仕草もユニークで、他人を罵らせてもその才能をいかんなく発揮する。
しかし、この歳であまり非道いことを言われると、カッとなって脳の血管が破れると困るから、俺はヒトと書いた。
こんな具合に、とても用心深く生きているから、俺は今日の朝現在、体重が92キロあって元気なこと生まれたての赤ん坊みたいなのだ。
先祖の写真を見ると、父方も母方も年寄りは皆、爺サマは鶴みたいに細く、婆サマは小さな皺の団子みたいだから、七十に近くなると、放っておいても自然に萎んで小さくなるのだと分かる。
しかし、なぜ、俺だけ違うのか。連日、間食もせず腹七分目の過酷なダイエットに耐えているのに、なぜ痩せたり萎んだりしないのだ。
御先祖サマと違うところは、前科と前歴ぐらいしか思い当たらない。元ヤクザは七十過ぎても痩せないのか。前科モンは一生コロコロしているというのか。
思い当たることが、もう一つだけある。

アルバムに写真が貼ってある爺婆は、俺の知る限り皆、見合いで一緒になっているが、俺サマは今の女房殿と、世界を敵に回して命懸けで一緒になった。愛に基づいての結婚だ。
これだって俺の言うことはみんな、嘘や大袈裟なんかではない。
愛に基づかない結婚をすると、ロサンジェルスのホテル・ニューオータニで、金槌で頭を殴られたり、5.5ミリの弾を頭に喰らってあの世に送られてしまう。
戦前のアメリカであった排日運動の発端は、当時の日系移民がしていた写真結婚が、原因の一つだったと聞いたことがある。太平洋を渡って見合いをするのは大変なので、鹿児島や広島から送ってもらった写真だけで結婚を決めるのが、西洋人には犬か馬ならいざ知らず、ヒトのすることではないと、軽蔑されたというのだ。
ヒトは愛し合って、少しでも長く一緒に過ごしたいと思うから結婚する。愛に基づいて一緒になるのが結婚で、愛がなくて乳繰り合うのを、昔は売春、今は援交と言う。

結婚と売春をゴッチャにしているヒトが、日本だけではなくて、世界中に大勢いる。
大統領執務室でアルバイトの学生と不適切な関係になった亭主に、ファーストレディーでいたいばっかりに我慢した女房もいたし、父親をどこぞの大使にしたくて、結婚という名の売春をした娘もいた。
結婚は痩せないと分かったから、今度は援交をやってみようと、密かに俺は企んでいる。

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