第86回 『オマジナイが全て』

北岡先生と“ディベート研究協会”の方たちは、このホームページの愛読者でいらっしゃる。
今回、皆様に寄せ書きの御激励をいただいたので、この場を借りて、厚く御礼申し上げる。
古稀の爺いが、かなり常識や良識と違ったことを、なんでも好きに書くのだから、眉を顰められたり腹を立てられるのは毎度のことで屁とも思わないのだが、わざわざ激励の寄せ書きを郵送して下さる方が居て下さるなんて、俺は嬉しくて堪らない。
“ディベート研究協会”の皆様、有難うございました。

千葉県の野島崎沖でイージス艦「あたご」が、漁船に衝突して船体を切り裂くいたましい事故があり、三浦和義が旅先のサイパンで突然逮捕された。そして一審で無期懲役を喰らった通称ナガミネは、重病で執行停止になって入院していた千葉の病院から、二十四日忽然と姿を消した。
俺は海技免状を持っている元船乗りだし、二十年前には三浦和義に名誉毀損で訴えられ、松葉会の若い衆だったナガミネとは、半世紀も前からの知り合いだったから、次々と起こる事件に俺は気が揉めて仕方がない。
「あたご」に激突されて沈められた漁師の親子は、本当にお気の毒だ。約三百人乗り組んでいた乗員の内、海に飛び込まないまでも、一人もボートを海面に下ろして捜索した奴もいないのを知って、俺は暗澹とする。
三浦和義には二十年前に、百万円せしめられた。俺が週刊現代に「絶対仮釈放ナシの無期懲役に処す」と、ロス疑惑の判決文を書いたら、三浦和義は五百万円分、名誉を毀損されたと訴えたのだ。
それに対して俺は、「原告には当時、名誉なんてものはカケラも無かった。無いものは毀損できない」と主張したのだが、地裁の判事は名誉毀損の訴えを認め、「被告は慰謝料として百万円支払え」という判決を下した。
三浦和義は五百万円分名誉を毀損されたと言い、俺はゼロだと主張したのに、判事は百万円払えと判決したのだから、これは誰でも納得なんかしない。
俺は、百万円だけ名誉を毀損したという数字的な根拠を示せと言って「最高裁までやるぞ。負けるもんか」と喚いたのだが、講談社の顧問弁護士に止められて、長いモノに巻かれた。
千葉の病院から姿を消したナガミネは、強風が吹き荒れる関東で、何処でどうしているのだろう。二十四日に逃亡したというニュースの後、あと追いの記事が何もない。

何でも他人ごとの福田康夫内閣の日本では、安心して魚も獲れないし、元社長という怪しい肩書きの男も、無期懲役の上に一千万円の罰金と九億六千万円の追徴金を喰らったナガミネも、なかなかカタギにはなれないようだ。
俺だけ大幸運に恵まれて、この二十年、危ないこともなく、ヤクザより悪い銀行や役人、それに政治屋たちに命もとられずに、無事に馬齢を重ねているが、こんな日本では一寸先のことは、もはや誰にも分からない。
この国では、幸福の秘訣は誠実さとか真摯な努力とか、そんなことではなく、運がいいことや良く効くオマジナイを知っていることだと分かるのだが、こんなこと、息子や若い者たちに言えるものか。


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