第55回 『次はなんだ?』


日本がブラジルに負けて、やっと狂乱の日々が終わった。
多分、狂乱していたのはテレビだけなのだろうが、夫婦二人きりで住んでいると、唯一テレビが、とてもよく喋る他人なのだ。
さんまもスマップも、それにアナウンサーも評論家も、ブラジルに止めを刺される迄、最初から日本が決勝トーナメントに行けそうな期待感を、煽るというよりも、ほぼ断言していた。
オーストラリアに負け、クロアチアと引き分けて予選突破が絶望的になっても、なぜかみんな、ブラジルに勝って決勝トーナメントに進むのだと、流石に断言まではしないが、奇跡を祈ったり願ったり、日本人なら一緒に信じようと叫んだりしたのだ。
敗退した今になって、背の高さとスタミナと、それに加えて個人技さえも世界レベルにほど遠いなんて言い訳しても遅いんだ。

こんな新興宗教の大合同結婚式みたいな狂乱が、何ヶ月か続いて、テレビを切らないと俺は、つい釣られて愛国者になって自民党の後援会に入ってしまうと、心配になった。
同じようなことが、日本では周期的に起こる。前回はトリノの冬季オリンピックで、前々回は衆院選だった。
金メダルは何個、銀と銅は何個づつと、テレビは喚き捲くったのだが、般若顔のイナバウアーのお陰で、最後の最後で誤魔化されて誰も責任を取らずに済んだ。
衆院選でのホリエモン騒ぎも、俺は忘れない。弟だ息子だと叫んだ政治屋も、小泉と自分、それにホリエモンの三人で、改革を推進して行くと喚いた学者崩れの大臣も、八十三人も生まれた小泉チルドレンのお蔭で、バツも受けずに威張り腐っている。
そして今回のワールドカップも、同じテレビの集中プロモーションだった。

俺たち日本人は周期的に、テレビの煽り立てた狂乱の渦の中で、視覚も聴覚も、価値観と判断力まで奪われてしまう。
テレビを消せばいいじゃないか……なんて言うのは、エセ・インテリのよく口にする手口で、こんなことは後家の丸髷とユウ。
ユウだけだ。

俺たちが気を取られている隙に、権力者や政商は、何か悪いことか天文学的な金額を、こっそり懐に入れている。
だったらテレビは権力者と政商の、広報係だろう。ワールドカップの間に一体どんな悪いことをしていたんだろう。
サッカーが余り好きではない俺は、この目くらましには引っ掛からずに済んだのだが、日本にはマスコミが無く、ジャーナリストも全く無力だから、ワールドカップの間に悪事がバレたのは福井という恥知らずな日銀総裁だけだった。
俺は、日本の政治屋と、その子分のテレビが、カマキリより嫌いだ。
最近はあんなに好きだったスポーツまで、テレビのお蔭で嫌いになった。

何か全てのものが、うさん臭くて堪らない。


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