第10回 『すさみの初鰹』


2月29日
昨日、オウムの松本智津夫に一審の判決があった。
俺は死刑廃止論者だが、こういう奴が現れると途方にくれる。
しかし、それにしても日本ではなぜ、こんな教団が存続していられるのか?
名前を変えたからいいというものでは、ないはずだ。
ヤクザより、マスコミより、ずっとこいつ等の方が悪いと俺は思う。
マスコミが面白おかしく報じていた十五年前から、俺は、「オウムは凶暴だ。皆、用心しろ」と、たった独りで警告していたんだ。
まだ尻尾を出していなかったオウムは、俺の留守を確かめると、十人ぐらいで家の前にやって来てかわるがわる何度も記念写 真を撮る。
留守番をしていた女房殿は、薄気味が悪くて青くなった。
所轄の丸暴の刑事は、「公道で記念写真を撮るのを殴ったら、安部、お前また懲役に行くことになるぞ」なんて嬉しそうな顔で言う。
警察も検察も新興宗教に遠慮があったのは、創価学会が力を持ったせいだと俺には分かっている。
警察と検察が妙な遠慮をせずにキチンと仕事をしていたら、松本の事件でオウムはパクられていたから地下鉄サリン事件は、起きなかった。



3月05日
NHK BS放送の釣番組の収録で、和歌山県の“すさみ”に行く。
漢字で書くと周参見だが、平仮名で書くと町議会が決めたのは、“しゅうさんけん”という周富徳の弟と間違えられるからだ。
この町では日本で一番早く初鰹が釣れる。
ミストラル号の朝本スキッパーも、漁具屋の岸さんもすさみの方は皆、素晴らしい方たちだった。
こんなに、お目に掛かった人たちが皆、素敵だった旅も珍しい。
俺は旨い鰹で酒と焼酎を、久しぶりで呑みに呑む。
丸二日間、鰹とシイラを釣り続けたので、普段遣わない筋肉が痛んで深呼吸も出来ない。
潮風を一杯に吸い込もうとすると、背筋と腹筋がミシミシ痛む。


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