第3回 『旅から旅の旅ガラス』

11月17日(月)  

金曜日の朝六時に起きて、女房殿と一緒に羽田に行って高松まで飛ぶ。  
地方の仕事に女房殿が必ず付いて来るのには、実は訳がある。  

六年ほど前に俺は、ゴルフをしてから新富士でこだまに乗って、新大阪に着くはずが、なんとしたことか着いてみたら東京駅だった。  
ゴルフが終わって仲のいい友達たちと、グイグイ呑んで酔っ払って下りと上りを間違えて、そのまま眠りこけてしまったらしい。  
それから女房殿は、何処へでも使命感を漲らせて付いて来る。  
だから地方に行っても羽根は伸ばせないで、畳んだままだ。  
高松に着いて、地元の旦那衆にさぬきうどんを御馳走になる。  
もり家という屋号の店で、金曜日の昼なのにお客が入り切れないほど繁盛していたのだが、香川県に七百軒あるうどん屋さんの中でも五本の指に入るお店なのだそうだ。  
講演の聴衆は若い男が多かったが、なぜか皆、大人し過ぎて表情が無い。  
若い女は、男より平均してずっと人間らしくてチャーミングなのは何故だろう。
全部が全部とは言わないが、最近の若い男は喜怒哀楽が欠落していて魚か虫みたいだ。
こんなで女を口説く時はどうするのだろうと、お節介な俺は心配になる。  

終わってすぐ羽田に引き返したのだが、旅はまだほんの途中だ。  
そのまま東京駅に行って、盛岡行きの特急に乗って福島に行く。
草臥れ過ぎたのか駅弁も全部は喰べられず残したし、それに缶ビールも半分しか喉を通 らなかった。  
ビールが呑めなかったなんて、今までに一度もなかったんだから俺は疲れている。  
東急インってホテルに泊まったのだが、これがまたこんな時に限ってどうにもならない腹の立つホテルだった。  
バーが無くて自動販売機にはビールしかない。  
俺の知らない内に東急は、キリンビールかサッポロの傘下に入ったのか?
俺は疲れ果てていて、ウイスキーか酒が寝酒になければ、明日の朝六時にはとても起きられそうにもない。  
女房殿は、目覚まし時計とモーニングコールをダブルで掛けておくから、安心して朝の六時までビールを呑んで寝ろと言ってくれる。  
このしっかりしている女房殿が、我慢して、面倒を見てくれるから、ヨタヨタ、ノソノソした俺は何とか仕事が続けられるんだ。  
ノロケではない。俺は女房殿に感謝している。  

中央競馬会のやっているCS放送の“グリーンチャンネル”が、福島競馬の朝の第一レースから最終レースまで、俺が毎レースどう買うか完全記録するのだから、これはハードな仕事だ。  
馬券予想屋としての沽券が懸っている。  
それに馬券代は俺持ちだから、負けるわけにはいかない。  
土曜日のローカル開催だから最下級条件のレースばかりで、見たこともないカス馬ばかりだから、まるで高知か荒尾の競馬場に行ったみたいなものだ。  
第一レースから外し続けて、気が遠くなりかけたところでメインレースの1000万条件の阿武隈特別 が、馬連でヒットする。  
ホットしてしゃがみたくなったのだから、俺も爺いだ。  
馬連の4-14、 890円を60%の比率でヒットして、その一発だけで、トータル・プラスになったのだから、何時でも口を酸っぱくして言っているように、買目は絞りに絞らなければいけない。  
それまで俺が外し続けたのを知っているから、穴場のオバちゃんたちが喜んでくれる。  
俺は昔から、東京より北では西や南よりもてるんだ。  

レースが終わって、すぐ汽車に乗って東京駅に帰る。  
やっとどうにかこうにか終わったのだが、この旅で口に入れたものは、アンパンひとつとさぬ きうどん一杯だけで、あとは全部弁当。  
それでも、福島競馬で僅かでもプラスしたのが、俺は嬉しくて堪らない。  
明日は昼から小学館、ヤングサンデーの俺の元担当者、木暮さんの結婚披露宴が代官山のレストランである。  
乾杯の音頭をやるのだから、昼間のことではあるし酔っ払ってはみっともない。  
俺がそう思う前に、女房殿がそう言ったのがウルサイ!


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