第2回 『品のいい男は苦戦する』
11月6日(木)  

10月と11月に忙しくなけりゃオリックスのローンは払えないし、毎日3000カロリーはキチンと喰べる女房殿は、とても養えない。
網走監獄博物館の20周年記念式典に顔を出し、返す刀で福岡11区で4選目に立候補した山本幸三を応援しに行く。
呑み仲間の山本幸三は品のいい男で 、日本の政治家にはめずらしくエゲツなくもなければ、下品でもない。
こんな男に限って、選挙では苦戦する。
田中角栄が総理大臣になって以来、日本では人間の品位が評価され語られることはなくなった。
日本でも指折りの下卑た男が総理になったからだと、俺は思っている。
優勢な候補者は俺に応援なんか頼まない。
婦人会のしたり顔のオバサンが、元ゴロツキの前科モンなんか呼ぶなと、反対するからに違いない。
俺を呼ぶのは当選がおぼつかなくなったヤケッパチな奴か、仲のいい男で、山本幸三は仲のいい呑み仲間なのだ。
俺は選挙と競輪が大好きだから、公明党以外は、ほとんど誰に呼ばれても本業に差し支えないかぎり、何処へでも喜んで飛んで行く。 先年、ある野蛮なところで2発、反対派の暴漢にハジキをぶっ放された。
俺を狙って撃ったのではなく、会場のロビーでデモストレイションにぶっ放したのだ。
ヤクザの抗争で、相手の事務所のドアに穴を開けるのと発想が似ている。
お主婦様に支配されてしまった日本でも、まだ昭和40年代が生きているところがあるんだ。
11月の9日に自民党が勝つか負けるか、俺はワクワクして、山本幸三は自民党の公認候補だが、山本幸三以外のやつが落選することを密かに願っている。

俺は単純に見えるらしいが、実は繊細でとても複雑なんだ。
普通の人だと、まず分からない。

俺が複雑だと故三島由紀夫先生は鋭く見抜いて、昭和41年に“複雑な彼”を、お書きになった。
俺がモデルで主人公の名前が“宮城譲二”だったから、作家になった時、講談社の宮田昭宏さんの奨めでペンネームを“安部譲二”とした経緯がある。
宮田さんが最初におっしゃったのは“橘譲二”で、橘は柑橘類の中で唯一、煮ても焼いても喰えないからだということだったが、演歌歌手かチャンバラスターみたいで面 映いから、姓は安部で勘弁していただいたのも、20年経つと、とても懐かしい。

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